ネット上に溢れる情報量が増え、高度に整理されるにつれて「アイデアをだす能力」はますます重要になってきています。
しかし、アイデアを出す方法について、体系的な説明はあまり多くありません。むしろアイデアというのは、一部の「切れる人」がふとしたきっかけで閃くものであって、「アイデアを出す方法」などというものは存在しない、と考えがちです。
こうした考え方に真っ向から異議を唱え、アイデア出しには「方法」がある、というのが今回紹介する『アイデアのつくり方』の著者、ジェームス・ヤングの一貫した主張です。
どんな技術を習得する場合にも、学ぶべき大切なことはまず第一に原理であり第二に方法である。
これはアイデアを作りだす技術についても同じことである。
アイデアのつくり方
目次
アイデアは既に知っていることから生まれる
アイデアというと、才能ある人が無から突然閃くというようなイメージを抱きがちですがヤングはこれを真っ向から否定します。すなわち、
アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない
アイデアのつくり方
と言うのです。
つまり、アイデアというのはそれ自体が新しいのではなく、古いものの組み合わせ方が新しいというわけです。
さらにヤングは、アイデアの新しさが組み合わせの新しさから来ている以上、全く違う二つの物事の関連性を見つける能力がアイデアを出す能力に直結すると主張します。
以前バズった「頭の良い人と悪い人の物の見方の違い」もこれに通じるところがあると思います。関連する物事を検索する力が強ければ、アイデアも生まれやすくなりますよね。(このツイートもう2年以上前なんですね。衝撃です)
アイデアが「関連性を見つけ出す技術」である以上、他の多くの技術と同じように、訓練し、上達することが可能だとヤングは主張します。希望が出てきますね。
アイデア出しの具体的な手順
さて、では「既存のもの同士の新しい関連性を見つけ出す」ためには、具体的に何をしたら良いのでしょうか。本書では手順も詳しく述べられています。
1ステップずつ解説していきますね。
ステップ1 資料の収集
アイデア出しが既存の知識の新しい組み合わせである以上、資料の収集がまず必要です。さらにヤングは、集めるべき知識には個別のケースのみ当てはまる特殊資料と、あらゆるアイデアの基礎になる一般資料(いわば「教養」)の2種類があると言います。
一般資料は特定のプロジェクトに関係ない多分野の情報なので、その収集はライフワークになります。ヤング自身、優秀な広告マン(彼自身は広告業界にいたので)は「あらゆる方面のどんな知識でもむさぼり食う人間であった」と述べています。
ステップ2 資料の検討
資料をたくさん集めた後は、これを整理して関連性を探っていく段階に入ります。
ヤングは3センチ×5センチのカードを大量に用意し、全てのアイデアをファイルしておく方法を推奨しています。こうすることで、カードを自由に並べ替えたり、違うジャンルのカード同士を見比べてみて、新しいアイデアを探せるからです。
梅棹忠夫の『知的生産の技術』で紹介されている「京大式カード」法と似た発想ですね。
ただ、本書の初版は1940年ですから、この段階はもう少し電子化できそうですね。evernoteなど使って試してみようと思います。
ステップ3 放置する
ステップ2が十分にできたら、つまり考えすぎてもうこれ以上関連性が出ない、という段階になったら、次にすべきことは放置です。
できるだけ完全にこの問題を心の外にほうり出してしまうことである。
アイデアのつくり方
問題を放棄して何でもいいから自分の想像力や感情を刺激するものに諸君の心を移すこと。音楽を聴いたり、劇場や映画に出かけたり、詩や探偵小説を読んだりすることである。
アイデアのつくり方
ステップ4 アイデアが「降りてくる」
ここまでの手順を踏めば、アイデアはあるとき唐突に「降りて」きます。シャワー中とか、髭を剃ってるときとか、そういう気を緩めた瞬間に。
アイデアの訪れてくるき方はこんな風である。諸君がアイデアを探し求める心の緊張を解いて、休息とくつろぎのひとときを過ごしてからのことなのである。
アイデアのつくり方
ステップ5 アイデアを現実の制約に合わせる
「アイデア出し」というと、私はステップ4までの段階を想像していました。しかし現実には、このステップ5が無いせいで失われてしまうアイデアが多いとヤングは言います。
アイデアを現実のものにするためには、通常いくつも乗り越えなければならない制約があります。よく言われることですが、「技術的に可能」なことの大半は「現実的には不可能」なことです。ですから、アイデアのうちの多くはかなりの規模縮小や妥協を迫られることになります。
しかし、このステップ5の段階、特に他人からの様々な批判を耐えぬきアイデアを実現させることができれば、とても強固なアウトプットが生まれるのは間違いありません。
おわりに
今回はジェームズ・ヤング『アイデアのつくり方』を紹介しました。
この本は驚くほど薄く、書店で見かけたときには他のビジネス書に混じってほとんどタイトルが見えませんでした。
しかし内容は濃く、時々読み返したくなる引力を持っています。
1940年に初版が刊行されてから2016年に第69刷を数えたそうで、まさに知的生産をする人々にとっての古典です。
キャリアや研究で「煮詰まっているな」と感じる人にはぜひオススメの一冊です。
ではでは。