あらゆる学習において、「記憶」は最も重要な役割を占めます。
今回ご紹介する『使える脳の鍛え方』は「記憶」のプロである心理学者が、広く行われていながら効果が薄い学習法に警鐘を鳴らし、
真に効果があり、効率の良い学習方法を広めるために書かれた本です。
目次
勉強や仕事は「効率×時間」で決まる
全ての学習は、以下の図式で表すことができます。
私たちは、何か資格をとるなどといったとき、どうしても「何時間かかるか」に意識を向けがちです。
社労士とか行政書士といった資格について検索するときも「資格名 勉強時間」「資格名 勉強量」で検索する人は多く、「資格名 勉強方法」は少ないようです。
しかし実際には、「どのように勉強するか」は勉強時間と同じくらい、場合によっては勉強時間以上に大事なはずです。
500時間かかる勉強があったとして、勉強時間を50時間増やすのは大変ですが効率を1割あげることは(この記事で紹介する方法を使えば)時間を捻出するほど難しくはないからです。
効率の良い「覚え方」:想起学習とは何か
想起学習とは、「学んだことを思い出す練習」をする学習法です。
例えば、以下のような学習が想起学習の良い例です。
- フラッシュカードや単語帳を使って、日本語から対応する英単語をすぐ思い出せるようにする
- 授業の最後に、3分間使ってその日の授業に関するクイズをだす。さらに次回の授業の最初にも同じクイズを出す
- 教科書の一定範囲を読んだ後で、その部分の説明を自分なりに再現して書いてみる
本書の中では、以下の2グループの記憶力を比較したテストが例として出てきました。
- 文章を一度読んだ後にすぐ文章に関するテストを受けたグループ
- 文章を2回繰り返し読んだグループ
すると前者の方が文章について覚えていた量も、記憶が続く長さも、いずれも有意に優れていることがわかりました。
要するに、想起学習をするには特別なスキルやデバイスは必要なく、ただ覚えたことを紙に書いてみるくらいでも十分記憶力をあげる効果があるということです。
想起学習をさらに効果的にする方法
間隔をあけて想起する
想起学習は非常に簡単な学習法ですが、より効果をあげるには間隔をあけて練習することが重要です。
本書の中では、1日に4つの授業を受けたグループと週に1コマ、4週間かけて同じ授業を受けたグループを比較して、後者の方が圧倒的に優秀な成績をあげた例を出しています。これは感覚的にもわかりますね。
詰め込み学習では記憶が長持ちしない
間隔練習の逆に、テスト前などに一気に多くの量を学習する、いわゆる「詰め込み学習」も広く行われています。
一九七八年の研究では、集中練習(詰めこみ学習)の場合、直後のテストでは高得点を記録しても、想起練習に比べて忘れるのが早い。
『使える脳の鍛え方』
しかし詰め込み学習では、想起練習に比べ忘れるのがとても早いことがわかっています。本書で取り上げていた研究では、
初回のテストから二日後に二回目のテストをおこなうと、集中練習のグループは、初回のテストで思い出せたことの約半分を忘れていた。一方、同じ期間に集中練習ではなく想起練習をおこなったグループは、一三パーセントしか忘れなかった。
『使える脳の鍛え方』
なんと3割以上も差が出ていました。
効率的な想起学習の実践:私の例
このまえ、ちょうどとある資格試験を受験したので、想起学習を実践した私の例をご紹介します。
普通の学習の順序は、
このような順序を踏みます。
しかしこの順序だと、インプットをする時にただの「繰り返し読み」になってしまい、アウトプットで問題を解く時に初めてテキストの内容を「想起」しています。
ですからテキストを読んで、問題に移るまでの間にインプットした情報をどんどん忘れてしまいます。
ですから私は、この順序を逆にしてみました。
このように、問題を解き、解説を読み、間違えた問題をまた解く…という手順を繰り返すことにより、強制的に「想起」を発生させるようにします。
そして、詰め込み学習にならないよう、同じ問題を次に解くのは数日後にします。
このように想起を学習の中心に据えることで、極めて高い効果を実感することができました。
おわりに
いかなる学習でも、記憶は学習の目的ではありません。
大切なのは、必要な場面で学んだことを取り出せること。
であれば、何度も繰り返し、間をあけて「取り出す練習」をする想起学習は、学習の目的にマッチしている学習法といえるのではないでしょうか。
私にとって、学習法を考える上での柱となる本でした。
紹介した本は以下です。